ボジョレーヌーヴォー、他のワインとは違う特別な新酒ワインの造られ方
この記事の目次
ボジョレーヌーヴォーについておさらい
ボジョレーヌーヴォー(Beaujolais Nouveau)とは、リヨンの北に位置するボジョレー地区で造られているボジョレーワインの新酒です。毎年11月の第3木曜日が解禁日とされていて、その年に収穫されたブドウで造られたワインを、私たち消費者が初めて味わえる日です。2022年の解禁日は11月17日(木曜日)です。
ボジョレー地区で造られているワインのアペラシオン(原産地呼称)は次の12種類。そのうち、AOC BeaujolaisとAOC Beaujolais villagesの2つのみにヌーヴォーの販売をすることが許可されてます。
- ボジョレー地区全域で造られるAOC Beaujolais(アーオーセー・ボジョレー)
- そのうちブドウ畑の地理条件等がいい38の村で造られるAOC Beaujolais villages(アーオーセー・ボジョレービラージュ)
- さらに優良な地理条件の村で造られるCrus du Beaujolais(クリュ・デュ・ボジョレー)と言われる10のアペラシオン
ボトルには、AOC Beaujolaisの新酒であれば「Beaujolais Nouveau」、AOC Beaujolais Villagesの新酒なら「Beaujolais Villages Nouveau」と書かれています。
本題からは逸れますが、クリュ・デュ・ボジョレーについては、この記事の後半で少しだけ触れたいと思います。
ボジョレーヌーヴォーについては、こちらの記事「リヨンで楽しむ2021年ボジョレー・ヌーヴォー」にも書いています。ぜひ併せて読んでみてくださいね。
他の赤ワインとは違う、ボジョレー式ワイン醸造
一口にワイン醸造と言っても、非常に様々な方法があります。例えば赤ワインと白ワインでは醸造方法が違いますし、シャンパーニュなどの発泡ワインはまた独特の方法で造られています。醸造方法についてはそれぞれのアペラシオンごとに決まりがあり、その他の様々な決まりと共にカイエ・デ・シャルジュ(Cahier des charges)という仕様書に記されています。そこで許可されている方法で造られたワインのみが、そのアペラシオンを名乗ることができます。例えば、シャンパーニュの生産地域内で造られたワインであったとしても、カイエ・デ・シャルジュに記されている醸造方法に従わない場合は、シャンパーニュと呼ぶことはできず、ボトルにシャンパーニュと表示することもできません。
ボジョレーでは、複数のワイン醸造方法が許可されていますが、その中にVinification beaujolaise(ボジョレー式ワイン醸造)という、一般的な赤ワインと比べると少し異なる方法があります。この醸造方法は、もちろん他の地域でも使われることはありますがやはり少数派。ボジョレーの主要ブドウ品種であるガメイ種にこの醸造法が向いていることから、ボジョレーを代表する醸造方法となっているのです。
では、一般的な赤ワインの醸造方法とボジョレー式赤ワインの醸造方法の流れを簡単に比べてみましょう。分かりやすくするために、詳細は省略していますのでご了承ください。
一般的な赤ワインの醸造
- ブドウの収穫(vendanges)
収穫は手作業または機械で行われます。シャンパーニュのように手作業による収穫が義務のアペラシオンもあれば、どちらにするかは生産者の選択に任されているアペラシオンもあります。 - 選果(tri)
ワイン造りに適さないブドウや混ざり込んでしまった葉などを取り除くために、収穫されたブドウの選別が行われます。 - 除梗(éraflage)
収穫されたブドウを果梗(ヘタや柄の部分)と実に分ける作業です。基本的に、ブドウの実の部分のみがワイン醸造に使われます。 - 破砕(foulage)
果梗を取り除いたブドウの実を潰すことにより皮を破って、果汁を出す作業です。 - 樽入れ(encuvage)
醸造用のタンクにブドウの果汁、果肉、皮、種を入れます。 - アルコール発酵と醸し(fermentation alcoolique & macération)
ブドウの果汁、果肉、皮、種を入れたタンクに酵母を加え、このタンク内でアルコール発酵をさせます。この発酵期間中に、ブドウの皮から色素やタンニンが果汁に移り出し、赤い色のワインとなります。 - フリーランワインの抜き取り(écoulage)
アルコール発酵が終わったら、タンクの中の液体部分(フリーランワイン / vin de goutte)を抜き取ります。この段階では圧力をかけたりせず、自重により出てくる部分だけを回収します。 - 圧搾(pressurage)
フリーランワインを抜き取った後の個体部分をタンクから出して圧搾し、残っていた液体(プレスワイン / vin de presse)を回収します。このプレスワインは、全量またはその一部がフリーランワインとブレンドされます。 - マロラクティック発酵(fermentation malolactique)
アルコール発酵後のワインにはリンゴ酸が含まれていて、酸味が強い傾向にあります。マロラクティック発酵によりリンゴ酸が乳酸と炭酸ガスに分解され、酸味がまろやかになります。 - 熟成(élevage)
発酵が終わったワインは、樽やタンクに移して熟成させます。熟成期間はワインにより様々です。 - 清澄と濾過 (collage & filtration)
熟成が終わったら瓶詰めする前に、オリや細かい不純物を取り除くことで、より澄んだワインにする作業です。 - 瓶詰め(embouteillage)
ボジョレー式赤ワインの醸造
- ブドウ収穫(vendanges)
ボジョレーではブドウの収穫は手作業で行われます。 - 選果(tri)
- 樽入れ(encuvage)
醸造用のタンクにブドウを房まるごと入れます。ボジョレー式醸造では、除梗(éraflage)と破砕(foulage)は行われません。一般的な赤ワインの醸造との違いの1つがここです。 - セミ・カーボニック・マセレーション(macération semi-carbonique)
ボジョレー式醸造独特のアルコール発酵と醸しです。少し長くなるので、下に別途説明を加えました。 - フリーランワインの抜き取り(écoulage)
- 圧搾(pressurage)
- フリーランワインとプレスワインをブレンド(assemblage)
- マロラクティック発酵(fermentation malolactique)
- 熟成(élevage)
- 清澄と濾過 (collage & filtration)
- 瓶詰め(embouteillage)
セミ・カーボニック・マセレーションとは
ボジョレー独特のセミ・カーボニック・マセレーションでは、上記の行程にも書いた通り、ブドウは除梗や破砕されずに房まるごとタンクに入れられます。ブドウが入ったタンクの中では、下層部、中層部、上層部でそれぞれ異なる発酵が進んでいきます。
大きなタンクに積み重ねらるように入ったブドウ。当然下の方のブドウは上に重なるブドウの重みで潰れ、自然と果汁が出てきます。この果汁はタンクの下層部に集まり、ブドウに元々存在する酵母の働きでアルコール発酵が起こります。このアルコール発酵により、果汁に含まれている糖分がアルコールと二酸化炭素に分解されます。
タンクの中層部には、重みで自然に潰れたブドウと果汁が集まります。この部分にある果汁に、ブドウから色素やタンニン、アロマが果汁へと移るのです。タンク内には当然、ブドウの皮や果肉だけでなく、果梗(ヘタや柄の部分)もあります。一般的な赤ワイン醸造と異なり、果梗からもタンニンやアロマが果汁に移るのが、ボジョレー式醸造の特徴の1つでもあります。そしてこの部分にある果汁も、もちろんアルコール発酵をします。
タンク上層部では、樽入れの際にタンク内に入った酸素が、下層部・中層部で起こっているアルコール発酵によって発生した二酸化炭素に置き換わります。この部分にある房ごとのブドウは重みで潰れることはなく、皮の内側の果実内で発酵が始まります。この発酵により、独特のアロマが生まれることになります。
このセミ・カーボニック・マセレーション中に、下層部の果汁を取り出して上層部のブドウにかける作業が何度か行われます。これにより、タンク内全体の温度が均一になり、発酵が進む手助けとなるのです。
セミ・カーボニック・マセレーションの期間は生産者の選択やアペラシオン、その他様々な条件により異なり、ヌーヴォーの場合は平均4日間、クリュ・デュ・ボジョーレーの場合は長く、10〜15日間ほどにも及びます。
ボジョレーヌーヴォーと普通のボジョレー、ここが違う
一般的な赤ワインとボジョレーの赤ワインの大きな違いは、その醸造方法だということはお分かりいただけたと思います。では、ボジョレーヌーヴォーと普通のボジョレーの赤ワインは何?と疑問に思われる方もいることでしょう。
最大の違いは、ヌーヴォーは、11月第3木曜日の解禁日においしく飲めるように醸造されるワインだということです。アペラシオンにもよりますが、普通のボジョレーワインは早くて収穫から1年後頃に市場に出回ります。ちなみに、ボジョレーの北にあるブルゴーニュでワインを造っている友人は、瓶詰めするのは基本的に収穫から1年半後くらい。瓶詰め直後はワインが安定していないので、その後少し休ませて、市場に出回るのはおおよそ2年後なのだそうです。
通常年で収穫から約2ヶ月後においしく飲めるよう造られたワイン。当然のことながら熟成にはあまり向きません。ボジョレーヌーヴォーは解禁から3ヶ月以内が飲み頃だと言われています。中には1年くらい寝かせて飲むという通もいるようですが、年内に飲むという人が多数派のようです。
これに対し、普通のボジョレーワインは時間をかけて醸造されます。特に次の項で少し触れるクリュ・デュ・ボジョレーは、熟成することでさらにおいしく頂けるものが多くあります。
ちなみに、先ほどご紹介したボジョレー式醸造(セミ・カーボニック・マセレーション)で造られるボジョレーヌーヴォーは実は量としては少なく、ヴィニュロン(vigneron)というブドウ栽培から醸造、出荷まで自家で行っている小規模ワイン生産者のものがその大半を占めます。その他の多くのボジョレーヌーヴォーに使われる醸造方法についても少しだけご紹介したいと思います。
ボジョレーヌーヴォーに特有の醸造方法
ボジョレーヌーヴォー特有と言ってもいい醸造方法が、テルモヴィニフィカシオン(thermovinification)と言われる方法です。セミ・カーボニック・マセレーションと比べると、人の手を加える、つまり自然ではない部分が多くなるため、この醸造方法がアピールされることは少ないのですが、特に量産することが多いネゴシアンなどが利用する場合が多く、スーパーなどの量販店で売られているボジョレーヌーヴォーの大半がテルモヴィニフィカシオンで造られているという話も聞いたことがあります。
テルモヴィニフィカシオンがどんな方法なのか、大まかにご紹介しましょう。収穫されたブドウはまず、通常の発酵温度よりもかなり高い温度(一般的に70〜75℃) で約30分〜数時間ほど温められます。この作業により、アロマや色素をしっかりと引き出すことができます。その後圧搾して果汁を取り出し、そこに酵母を加えることで発酵がはじまります。高温で温めることにより、ブドウに元々存在していた酵母は死滅してしまうため、人工的に酵母を加える必要があるのです。
この方法で造られたワインは、フルーティーでアロマが豊かな反面、熟成には向いていません。年内に飲むことが多いボジョレーヌーヴォーならではの醸造方法と言ってもいいかもしれません。
ワンランク上のボジョレー、クリュ・デュ・ボジョレー
クリュ・デュ・ボジョレーとは、ボジョレー地区の中でも最良の条件が揃う北部の10の村のみで作られるアペラシオンの総称です。クリュ・デュ・ボジョレーは一般的に長期熟成に適したものが多く、アペラシオンごとにその特性も異なります。生産数が多くなく、日本ではなかなか見ないかもしれませんが、機会があればぜひ味わってみてほしいワインです。
10のクリュ・デュ・ボジョレーは北から南の順に次のとおり。それぞれの特徴について詳しく知りたい方は、ボジョレーワイン公式ウェブサイトを参照してくださいね。ちなみに私が特に気に入っているアペラシオンは、サンタムールとフルーリーです。
- Saint-Amour(サンタムール)
- Juliénas(ジュリエナ)
- Chénas(シェナ)
- Moulin-à-vent(ムーランアヴァン)
- Fleurie(フルーリー)
- Chiroubles(シルーブル)
- Morgon(モルゴン)
- Régnié(レニエ)
- Brouilly(ブルイィ)
- Côte de Brouilly(コートドゥブルイィ)